SNOW SUGAR


ちらちら雪が降っています。
外から帰ってきたトラくんは、牛乳を温めてふぅふぅと息を吹きかけました。
何か甘い物でも食べたいなとぼんやり思いながら白い雪を眺めていると、向こうの方をころころとオレンジ色の毛糸の玉に乗りながら、小さなゆきだるまが雪の丘を横切っていくのが見えました。
小さなゆきだるまは小さな傘の上で何かを回しているようです。トラくんは驚いて思わず窓を開け、
「すみませーん、何を、しているんですか?何を、回しているんですかー?」
と聞きました。小さなゆきだるまはくるくる回す手を止めないで
「ゆきで作ったさとうだよー ほしいかーい」
と答えました。
トラくんは、ゆきで作ったさとうというものを知りませんでしたし、話ができるゆきだるまを見るのも初めてでしたが、もう少し近くで見てみたいように思ったので
「ほしいでーす」
と答えました。
小さなゆきだるまは毛糸の玉の向きを変え、トラくんの窓の下まで、真っ直ぐやってきました。
ゆきだるまが近づいてくるにつれ、トラくんは、そのゆきだるまに見覚えがあるような気がしてきましたが、いつ見たのか思い出せません。 傘の上では小さなさとうが上がったり下がったり楽しそうに、美味しそうに跳ねています。
「ゆきでさとうが作れるの?」
トラくんは尋ねました。ゆきだるまはトラくんの部屋の窓の中へひょいひょいひょいと傘で上手にさとうを投げ入れてくれました。
「遠くの誰もいない場所に、ゆきがきれいに積もってね、昇ったばかりの黄色い日が、朝、ゆっくりと差すでしょ?そうして夕方、沈む前の黄色い日が、そこへまたゆっくりと差すでしょ。誰にも見られないままで。それを繰り返しているうちにだんだん、真っ白いゆきは黄色い光をたっぷり吸い込んで、甘くてなめらかなゆきのさとうができるんだよ」
小さなゆきだるまはうれしそうに答えると、さとうの乗っていない軽い傘をくるくるくるっと回しながら、また元来た方へ転がって行ってそのうち見えなくなりました。トラくんはお礼を言うのを忘れました。
窓を閉めて、トラくんが振り返ると、床にころんとさとうが三つ転がっていました。一つ拾って牛乳に入れ、スプーンでかき回し飲みました。小さなゆきだるまの言う通り、お日様の光が牛乳の中に広がっていくような、あたたかい甘いとても美味しい味がしました。残りの二つは小さなお皿に乗せました。明日ウサギくんとネズミくんに持って行こう。傘を回す小さなゆきだるまにもらったことを話したらふたりは驚くだろうなと思いながら、トラくんは布団に入りました。


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